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今週は、ベルギー舞台芸術界が嫌な騒がしさに包まれている。

※Sofie.Dさんからご指摘いただいた後、ところどころ修正して再度記事を投稿しています。

 

Sofie.DさんのTwitterでの以下の投稿がみるみるうちに、日本の芸術界の人たちの間にも広まっていった。

 

 

 

フランダース政府(ベルギーには、大きく分けてフランス語を話すワロン地方とフレミッシュを話すフランダース地方があります)が、芸術プロジェクトへの助成金を60%の大幅カット、劇場や美術館などの文化施設や現在既に有名なカンパニーに対しては6%の支出削減をする、という発表をしたのだ。

 

フランダースは、世界でいま一番演劇的には熱い場所といっても過言ではない。

そもそも才能の宝庫なのだ。

日本でも有名な、演出家のイヴォ・ヴァン・ホーヴェ、ダンスカンパニーROSAS率いるアンヌテレザ・ドゥ・ケースマイケルスを筆頭に、

ピーピングトム、tgSTANなどのカンパニーも過去に日本に公演にやってきている。

me too運動で糾弾されたものの、ヤン・ファーブルも現代演劇史において重要な演出だった。

森山未來主演作品「テ ヅカ TeZukA」「プルートゥ PLUTO」を振付をしたシディ・ラルヴィ・シェルカウイもフランダース出身。

ベルギーに来てから知った振付家ヴィム・ヴァンデイケイビュスも、コンテンポラリーダンスを語るうえでかかせない人だということ。

愛知トリエンナーレでも招聘されたミロ・ラウは、スイス出身ではあるものの、こちらもフランダース地方にあるゲント国立劇場のディレクターである。更なる芸術の更新のために、外国人であろうがなんだろうが、優秀だったら迎え入れる。

そういう寛容さがフランダース地方の芸術をより高めていったのだ。

 

端的に言って、才能の宝庫。

フランスにいた時に、ベルギーを他のフランス人の友人のように「なんかすごい人

たち」という瞳でみていた。

 

ただ、別の文脈に入ってみると、物事は得てしてまた別の視点で捉えられるようになる。

勿論、すごい才能ではあるのだけど、

同時にそれは、フランダース地方の政治的戦略の賜物でもある、という事実も見えてきた。

 

 

フランダース地方で話されている言葉は、フレミッシュというオランダ語の方言のひとつだ。

フレミッシュにも地方ごとで更に方言があるが、教育の場では標準オランダ語を使用するらしい。

単語ごとにも違いがあるときいたが、お互いに理解できる程度の違いだという。

 

しかし、フランダース人の人口は640万人程度。

世界にフレミッシュを喋る人口は640万人しかいない。

しかも、お隣のフランス語圏ワロン地方とは、同じベルギー人だけどめちゃくちゃ仲が悪い。

小民族として、どう他と差をつけていくか?

どう世界に存在感を示すか?

 

文化芸術の興隆によって。

それが、フランダース地方がとった政策だった。

こうして文化に大量に予算が割り当てられるようになったのだ。

 

 

まず、フランダースの舞台芸術のクリエイション環境は世界的に見ても素晴らしく恵まれているという。

また、世界にその存在感を示すには、世界ツアーに出る必要があるが、それも補助金があってこそのものである。

 

先日も、hetpaleisというアントワープの青少年センターに児童劇を観にいく機会があった。

アントワープの街のど真ん中に位置するこの文化施設。

なんと、青少年向けの舞台作品だけのための劇場がいくつもあり、バレエ学校なども併設されている、それはそれは大きな施設だった。

施設のホールでは小さな子供たちがきゃきゃと遊んでいて、

私が鑑賞した作品に出ていた子供たちも一般人からの公募だという。

幼少期から文化芸術に触れているというのはこういうことなのか、と正直圧倒された。

 

生まれ持っての才能というのは確かにあるけれども、

そういう才能は、それを育てる環境があってこそのものであるのだ。

 

私が通っているINSAS含めすべての国立の芸術学校も、授業日は登録料300ユーロ程度を払えば、あとは無料。

これも全部、助成費あってのもの。(INSASの場合はワロン地方の予算)

 

 

そして、フランダース地方が発表したのは、新たなプロジェクトへの助成金60%カットである。

想像力や経験に乏しい私でもわかるこの60%カットという字面の恐ろしさ。

犠牲になるのは、真っ先に新たなプロジェクトをする世代、つまり私の属する若い世代のアーティストである。

 

 

日本を含め世界のどこもかしこも、文化に対する助成金をカットする方向にある現在。

新たな芸術の在り方を探っていかなければいけないのか?

お金がなくても、どうにかなるような?

それって可能なのだろうか?

アーティストだって、人間だから生活していく必要がある。

そして、それがチケット収入では賄えないから、助成金があるのだ。

(ベルギーの劇場収入のうち、チケット収入は10%程度に過ぎない)

この際、ポエティックな理念なんて、いらない。

ただただ、アーティストは社会に必要なのだ、ということで十分じゃないか。

 

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フェイスブック内で、現在多くのベルギー在住アーティストが使っているプロフィールエフェクト。自身の写真の60%が覆われている。