あまりに大きな出会い。

コンゴ出身の劇作家、演出家、俳優のディウドネ・ニアングナ(Dieudonnée Niangouna)とのスタージュ、そして私のコンセルバトワールでの最後のスタージュを5月中旬に終えました。

ディウドネとの出会いは、衝撃的で、どう言葉にすればいいのか分からない。

年度初めに、彼とのスタージュがプログラムされていることを知った私たちは、ずっとこのスタージュを楽しみにしていたのですが、4月の末にナントでも一番の客席数を誇る劇場Grand Tにて上演された彼の作品を観て、大分揺らがされました。

というのも、上演中に席を立つ観客が後を絶たず、3時間50分の上演後には900席のうちの半分近くの観客がいなくなっていたから笑

上演中に席を立つことに対して日本よりもずっと抵抗感のないここフランスだけど、こんな規模は初めて。

じゃあ、つまらなかったのかと言われてるとそうでもなく、それでは面白かったのかと言われると、ちょっとそれもよくわからない。洪水のように止まらないセリフ。まるで理解すること、ましてや話の筋についていくことさえ難しいスピードと情報量の多さに、上演後は頭がぼーっとして言葉もなかった。

「なんだこれ」感は、フランソワ・タンギの作品を観た時にも思ったけれども(詳しくはこちら→

不思議な一日。 - 踏み台における足踏みの軌跡。)、今回はそれとはまた違って、というかそれを超えて、「どうやって受け止めればいいか分からない」感満載の作品だった。

 

そんな作品をつくるディウドネ。普通の人のはずもなく笑

コンゴ戦争を経験してきたような人物(そして、現在は自国に足を踏み入れることを禁止されている)の話を聞いた後には、自分がなんと安穏と生きているのかとあほらしく感じてしまうくらい。壮絶な人生を送ってきた彼。さらに驚きなどが、ほとんど食べず、寝ず、しかし元気いっぱい。まるで40歳には見えない。

 

スタージュは翌週の月曜日の学内発表に向けての準備といくつかのエクササイズをすることで構成された。それぞれのブロックをディウドネはacte(アクト)と呼ぶ。ひとつひとつのacteが平均して1時間近く続く。それが7つ。そうです、月曜日は7時感ノンストップで発表しました笑 しかも運動量もなかなか多く、エネルギーの消費量は半端ない。

 

ディウドネとのスタージュはあまりに濃く、そして名言に溢れているので、すべてを取り上げることは出来ないのだけど、その中でも一番強く記憶に残った瞬間について書きます。

 

毎回スタージュのあとに課されていた宿題。

金曜日の宿題は、今までつくってきた7つのアクトの順番を決めること。

「おお、今日は楽だな」と思った。それまでは「その日の中で一番強い感情を通った瞬間のモノローグを書いてくること」で、基本的に二時間程度それに時間を注いでいたから、それに比べたら楽なものだった。

土曜日に、各自に自分のプランをプレゼン。ディウドネも面白そうに聞いている。さて、どれにゴーサインが出るか。

「どれもこれも自分の感覚や印象に沿っているプランだ。そのアクト内で一体何が起こっているのか、どのように始まってどのように終わるのか、読まれているテクストは何について言ってるのか、それらを考慮して論理的に数学的に組み立てなければいけない」

要するに、全部やり直し。

全部、というのは、アクトひとつひとつを思い出すところからの再出発。

実は各アクト終了後に、ディウドネは私たちにアクトの内容をしっかりメモしておくこと、と支持を出していた。

もちろんメモはしていたけど、そこまで細かくメモをしていた人など誰もおらず、結果としてみんなで月曜日からの脳と身体の記憶を頼りに、ひとつひとつのアクトで何が起こったかを確認することに。全ての確認作業が終わったら、「論理的に数学的に」組み立てるための話し合い。まるでパズルを組み立てるような作業。14時に始まって、最終的には学校も閉まって、寒空の下学校前の芝生で話し合いをつづけた。

最終的に、ランナーズハイみたいになって、大興奮の中、22時半に終了。

ディウドネに認めてもらうとか、そういうことは抜きにして、「論理的に数学的に」物事を考えていくことに、いい意味で取りつかれていたグループのエネルギーはすさまじかった。

こんなにもグループのエネルギーを感じたことは今までになくて、初めて「この人たちと一緒に演劇をしたい」と感じた。

 

月曜日の7時間の発表では、びっくりするぐらい疲れず、むしろ終わりにむかえばむかうほど元気になっていく自分がいることに気付く。

発表後は、7時間一緒に残ってくれた観客とディウドネとで踊りまくる。お祭り。

 

 スタージュをしにくるアーティストは今までも沢山いたけれど、こんなにも離れがたい気持ちになったのは初めてて、ディウドネに「悲しい悲しい、別れたくない。」と言ったら

「でも終わりがあるからいいんだよ。花は枯れるから美しいのだ。終わりがあるから物事は美しい。」

と返ってきた。ますます名残おしくなるような名言を残して笑

 

ディウドネがスタージュ中に声を荒げて私たちに言った言葉。

「君たちは演劇にどうあってほしいんだ?」

は、しばらく私の心の軸になりそう。自分がそうあってほしい方向に自分がする。待っていないで行動しろ。そして、常に遠くに、より遠くを目指していなさいと。

彼の名言はいくらでもあるのだけど、何よりもそれらが美しいのは、彼がそれらを体現しているからである。

私も、もっともっと遠くへ行きたい。

完璧に酔っぱらってるけど、ディウドネと笑

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