欧州では、6月といえば年度末である。
年度末と言えば、卒業シーズンでもある。
日本で育った私にとって、こちらにきて最初の数年は、一年の中での何かの終わりと始まりであった3月4月に何も起こらないこと、それがただの春に過ぎないことに寂しさを感じていた。
それが今や欧州ペースにも慣れて、「5月からは年度末にむけて一気に忙しくなる時期」というモードにすっかりマインドセットされてしまった。
ということで、INSASでも4年生俳優科の学生の卒業公演があった。
私たち3年生の演出科の学生はその公演で音響、照明、舞台美術、衣装、演出補佐、制作といったテクニック面を担当する。
私が唯一興味があったのがドラマトゥルクだったのだけど、今回演出を担当したArmel Rousselがドラマトゥルクを必要としない演出家だったので、私は第二希望の照明を担当することに。
この毎年恒例の卒業公演。普段は外部の劇場を借りての公演のはずなのだけど、コロナ禍のせいでそれも諦め、それでは学校の中庭(演劇科の建物には大きな中庭があるのです)でするのか、それとも一番大きいホールでするのか、という長い長い検討・話あいから始まる。
学校の建物を所有するコミューン(区みたいなの)から許可が下りたら、中庭でやろう!ロックンロールに!とみんなで盛りあがっていたのも半ば、結局は中庭での公演に対しての許可が下りないことが分かり、ほぼ公演一か月前にして室内ホールで行うことになる。
これが、本当に、本当に大変だった。
もう最後の方とか、毎日泣いてた気がする。
INSASの4年間の中で一番くらいに大変なセミナーだとは聴いていたけれど、これほどまでに大変だとは思いもせず…。
最初の方は「自分たちでどうにかしてみなさい」とかなり放置される。
普通の劇場だったら、スタッフが吊の作業を手伝ってくれるけれど、今回はペアでやった子とほとんど二人でどうにかしなければいけない。(勿論、学校の技術スタッフの力も大いに借りたけれど)
バトンも下りないから、いちいち塔に上って作業しなければならなかった。
今回はクラスメイトと私の二人で照明を作り上げていくから、とにかく深く細かい意思疎通が必要で、(今回のセミナーでINSASの演出コースが何故「Théâtre et Technique de Communication(演劇とコミュニケーション技術)」という名前なのかを理解した。今まではただのギャグだと思ってた笑)この二か月仕事をした彼女と共に笑い、泣き、傷つけ、傷つけられ。「もう、これは恋愛関係を経験したといっても過言ではないよね笑」と。今は戦友だから、こんなこと言えるけど、本当に楽ではなかった。
ただ、これ程までに大変に感じた理由は何よりも
実は私が照明という仕事の大変さを全く分かっていなかったからなのだと思う。
ある日の公演が終わって、学校の小さな中庭に設営したバーで来年度からのディレクターのChristine Gregoireと話していた。
「私、すごい恥ずかしい。演劇って色んな人の力があって出来ているってわかってると思ってたけど、今までやっぱり分かってなかったって気付いた。こんなに長いこと演劇やってるのに」
と私が言うと、彼女は優しく「そうよね」と。
つくづく演劇って総合芸術なんだなぁ。
馬鹿だなあ、うぶだなぁ、何もわかってないんだもんなぁ。
コロナのせいで普通の学校生活を送れたわけではない2020-2021年度だったけれど、最後はそれを埋めるかのように怒涛の日々が続いた。
時間としては普通よりもはるかに少ない時間だったけれど、欠けることなく、学びを深めていける時間だったように思う。
来週の火曜に、総括の講評があって、そこにきてやっと夏のバカンス!
来年は4年生!最終学年。
長い長い学生生活も最後になる。(やったー!)
どんな一年になるかなぁ。