一週間前から、入学当時からずっと気になっていたステファン・オリヴィエとのセミナーが始まった。
ステファンはTransquinquennalというベルギーで有名なCollectif(所謂、演出家-俳優というヒエラルキーを持たない形態のカンパニー。「俳優集団」)の一員である。
なので、ステファンの肩書としては演出家・俳優だろうか?
日本でも平田オリザさんなどともクリエイションをしたことがあるらしい。
私が彼を知ったのは、一年前のINSASの入学試験のとき。
何名もいる審査員の中で、禿げた頭に大きな黒縁眼鏡がとても印象的で、とりわけ体が大きくて、その大きさのためか圧倒されてしまいそうだった。
それなのに、なんだか滲み出す可愛らしさに、興味が惹かれて堪らなかったのだ。
数回に分けて、一年かけて彼とやっていくことは、演出コース8人全員でひとつのプロジェクトを作っていくこと。
と、至って単純だけれども、ステファンはそうそう簡単に物事を進めさせたりはしない笑
「どうやってテーマを決めるか?」
どうやって、選択をするか?投票する?誰かトップを決めて、その人が決める?投票するなら無記名?それとも手を挙げる?はたまた、くじ引き?
こんなことを、実は先週1週間の午前中3時間×5=15時間もかけて話しあった。
大分話がわき道にずれたりしていたのもあるけれども、一週間は、長い笑
でも、こんなに長い時間をかけたのはステファン曰く
「どうやってテーマを決めるか、その時点で多くが決まってくる」
からだという。
そのテーマとどのような距離をとっているのか。
多くの人が「興味があるから」という理由で物事を選び勝ちだけれども、ステファンは何と言ってもひねくれものなので
「(これに興味がある、という理由のような)ポジティブな選択をしなければいけないのか?あまりにも気に障って、イライラする選択を、してはいけないのか?」
と投げかけてくる。
「8人でリーダーを設定しない中で何かひとつのことをは決めるのはかなり難しい」というと
「何かを選択するときに、他者と同意のもとに決める必要はあるのか?」
と返ってくる。
物は言いようじゃんか、とも思うけど、正にこの「物は言いよう」こそが大事なのかもしれない。
何を語るか、物事のどこを見つめるか。
自分の存在は、自分の意志とは離れたところで決められていることもある。(ステファンの場合は、50代の男性で白人でヘテロセクシュアルであることで、自分の好き嫌いにかかわらず社会的には圧倒的に有利な立場にある)
自分はいったい「どこから」話しているのか。
そこに注視しながら、自分が何を考えているのかを、みていく。
「僕はね、演出家なんかが本番直前に「(舞台上で)いい時間を過ごそうな」とか言ってくると虫唾が走るんだよね。いやいや、こっちにとってはいい時間とか、喜びとか、そういうんじゃないからみたいな」
と言っていた笑
ナントのコンセルヴァトワールでは、とにかく「plaisir(悦び)」が何よりもまず第一だったから、ちょっと目から鱗だった。
でも、ちょっとわかる。
plaisirっていう風に、言葉にしてしまうと、ひとつの感覚の色んな側面を切り落としてしまう可能性もあるな、と思っていたことがある。
そんな「感情」なんて不確かなものを、毎回毎回呼び起せるのだろうか、と思っていたのだ。それも大事だけど、それが演技の根幹だ、というのは疑問を感じていたのだ。
そんなこんなで、8人それぞれが提案した8個のテーマの中からひとつに絞るために、
一週間かけて考えられる方法全てを試してみた。
くじ引き。無記名投票。挙手方法。各自プレゼン。
まあ、色々やってみて、その度にステファンの横やりが入り、
横やりというか、実は一週間、
選択しないように、選択しないように、とステファンに心理操作を受けていたのだ。
それをばらされた私たちは、口があんぐりと開いて閉まりません、という様相。
ようやく金曜日になって決まったテーマは。
Conscience d'être manipulé「心理操作されているという意識」
これは、クラスの一人の子が提案した案で、最終的に多数決で決まったんだけどなあ?
あれ?なんか心理操作、ここでもされてるんじゃない?
「自分のプロジェクトを各劇場の芸術監督に売るには、どれだけ「これこそ君が考えていたことだ!」と思い込ませること。心理操作術がここでも欠かせないよ」
と言ってたけど、ええ?
私たちやっぱり操作されてない?
という訳で、私は唯一最後までこのテーマに賛成じゃなかったのだけど、
このテーマにいかに自分のやりたいテーマ「ナルシシズム」を潜り込ませていくか
が、個人的な課題です笑
INSAS入学以来、一番にワクワクするプロジェクトです。